自閉スペクトラム症(ASD)とは
かつては「アスペルガー症候群」や「広汎性発達障害」と分かれていました。こだわりの強さを基準にまとめて一本化された症状名が自閉スペクトラム症(ASD)です。
よく見られる症状は2群あります。
① イマジネーションとコミュニケーションの障害と自己中心性があります。興味のあることを一方的に話し続けてしまうなど、自分中心の考え方が強いことがあります。冗談や比喩が理解できず、想像力が貧困で字義通りを要求する人もいます。自分の感情や人の気持ちを理解するのが苦手で、感情的なやり取りや合意が困難なことがあります。非言語的なサイン(表情・目配せなど)を読み取る困難さが拍車をかける場合もあります。
乳幼児期から目を合わせるのが苦手、母親の表情で自分の行動を調節する関係が作れない、他の子どもに関心が無いなどの行動特徴があり、1歳半検診でスクリーニング(M-CHAT)がされるようになりました。この親子関係での発達特性のため、コミュニケーションや社会性といった部分に関連する脳の働きに、発達段階で障害が出てくるのではないかと考えられています。
② こだわり(固執)。小さい頃からくるくる回るものやキラキラしたものなど特定の物事に強いこだわりがあるなど、同じ事を繰り返す感覚に没頭する同一性へのこだわり傾向があります。大きくなると興味・関心の狭さなど、日課・習慣の変化や予定の変更に弱いなどという特性になって行きます。初めてのことや、決まっていたことの変更は苦手で、そのように対応するのに時間がかかることがあります。
その一方で、自分の好きなことや興味のある対象には毎日何時間でも熱中しています。
平均的な子どもは幼稚園頃から好き嫌いが修正されますが、この時期から食わず嫌いが激しい、服にこだわり着替えを嫌がる、特定の友だちに固執するなどの特性が明らかになっていく場合は診察を受けた方が良いでしょう。
知的にも能力的にも滞りながらも成長することで、思春期や青年期になると、自分と他者との違いに気づいたり、対人関係がうまくいかないことに悩んだりし、不安・うつ症状を合併するケースもあります(二次障害と言います)。子ども時代に発達障がいに気づかれず、就職して初めて、仕事を臨機応変にこなせないことや職場での対人関係などに悩み、自ら障害ではないかと疑い、医療機関を訪れる方も多くなりました。
診断を子どもの頃に受け、周囲の理解を受け、療育を利用して成長体験を積むことで、成長とともに症状が改善し目立たなくなる方がいます。自分の得意と苦手を理解し、能力の不均衡を上手に活用して、大いに活躍する方も見受けられます。
治療について
幼児期にASDと診断された場合は、親子の関係性を強め、養育力をあげるためのペアレントトレーニングを親に行います。親への心理教育では環境調整について学んでもらい、園や学校で子どもが適応でき易くするコーチになって貰い、先生に働きかけて貰う力を養成します。本人には、個別または小集団による療育によって、コミュニケーションの発達を促し、適応力を伸ばすことが可能です。また、療育を経験することによって新しい場面に対する不安が減り、集団活動への参加意欲も高まっていきます。
早期に診断をつけることは、保護者がお子様をありのままに理解した上で、余裕を持って成長を見守り、働きかけていくことを可能にします。
ASDそのものを治す薬はありません。ただ、認知機能において切り替えが改善することで、上記の特性の①②が緩まります。服薬すると、親や周囲の励ましや働きかけが伝わりやすくなったりします。本人の周囲の働きかけに応える力も伸びます。本人の自発的な工夫が出やすくなったりします。総合的に親子相互の働きかけが実を結びやすくなることで、必要な成長体験を積みやすくなるのです。ですから、薬を飲んで治すのではなく、薬を使って体験を積みやすくし、遅れていた社会性を伸ばしていくのです。
睡眠障害やかんしゃくなど行動の問題が著しい場合は、薬の服用が考えられますので、医師に相談してみてください。
思春期以降になって不安・うつ症状が現れた場合には、環境調整と本人の自覚の確認と修正を試みる心理療法が基本です。しかし、その場合にも、発達障がいの特性が本人にとって過大なストレスとなっている状況を確認して、まずは環境をチェックし、ストレスの軽減を図ります。他に方法がない場合、抗不安薬や抗うつ薬を服用すると改善することがあります。