ご挨拶
子どもと大人の発達障がいを専門とするクリニックを日本橋馬喰町に開院して4年が過ぎました。ご利用くださっている皆様に感謝致します。また、これから受診を考えておられる方にお電話頂く前に少し手続きと考え方を知っておいて頂けたらと思います。
当クリニックは、子どもたちが園や学校で抱える様々な困難を軽くすること、親が抱く児童思春期の子育ちの悩みや不安を共に考えることを目指します。
言葉になりにくい部分を理解し、親として子どもにかける言葉、子の言葉を受けとめる親の力を育むことが親子のこころの育ちでは大切と考えます。
学校での困難や学習でのつまずき、自信喪失、親子関係での悩みなど、今抱える困難を「主訴」と言います。問診票ではこの主訴が大事になります。お電話でのお問い合わせ時に、この主訴の部分を明確化して当院を受診されるのが適切か、それ以前に発達センターや教育相談所などで相談すべきかなどをお伝えしております。問診票だけでもかなり困難の原因が見えるのですが、書かれたことの不足点や気づかれてないことを初診面接で確認し、診断と今後の治療方針を提案いたします。診断は結論ではありません。今の問題を理解するための仮説です。初診で今の問題である育ちの遅れを明確にし、これから何処をどのように育てるのかという治療の方向を共有します。治療の経過で診断を客観的にしたり修正するために、補助的に心理検査を提案する場合があります。また、通常の治療だけでは不足すると考えた場合は、他施設でのカウンセリングや療育など各種の心理的支援を提案する場合があります。
以上のことから、セカンドオピニオン診察や診断のためだけの受診、心理検査だけの受診やカウンセリングだけの受診などは承っておりません。ご理解の程、よろしくお願いいたします。
「みんな違ってみんな良い」育ちの環境を実現するために、こころの育ちを抱える学校や地域の関係者との連携も意識して取り組み続けたいと思います。
今後もよろしくお願いいたします。
2024年1月吉日
こころの育ちクリニック 院長 小川 恵
院長の考え方
精神科医になってからの35年を振り返りながら、クリニックの名前を決めたいきさつをお伝えします。
私が神戸大学で研修医となった頃は、統合失調症とうつ病が精神医療の主流でした。東京へ移り、バブル崩壊後、共働き家庭で夫の協力が得られず睡眠時間を削って仕事と育児に頑張りながらうつになった母親を診る機会が増えました。
今なら「ワンオペ育児」とその問題を指摘出来ますが、「家事と育児は女の仕事」「母以外に育児は出来ない」と思い込まれていた当時、誰もその状況を問題視しておりませんでした。
次第にうつ病の母親達の子どもが学校で起こす不適応を診る機会が増え、小中学生中心の外来となりました。子どもの健やかな育ちが損なわれた状態や、子どもを支える家庭環境への関心が増し、子どもの中だけに病気の原因探しをする精神病理学に違和を覚え、離れました。親子や地域社会で関わり合う育ちの中で発達障がい傾向が明確化し、精神障害にもなって行くと考えるようになりました。
発達心理学から精神医学を見直しだした時期、大学院でスクールカウンセラー・臨床心理士養成の仕事に誘われました。大学教員と病院での外来とをしながら20年が過ぎた頃には、今の困難である発達障がいや精神障害を、育ちの現れ方(表現型)として理解するようになりました。その時代のこころとからだの健やかな育ちのイメージが、定型発達という理念型を生みだすので、定型は時代で変わる。実際の子どもは大なり小なり非定型発達の部分を持つのであると、定型発達と非定型発達(発達障がい)を自分なりに説明できるようになりました。次第に未来に向かう親子の関係性が、子どもの未来を変えていくという理解を大切にし、親の養育力と子どもの希望を大切に関わる外来に変わりました。幼児から思春期までの診察で、親が子どもの理解を深めることで養育力が増すことを重視して、親子一緒の診察をすることを基本にしております。
大学教員として臨床心理士・公認心理師の養成に携わった20年を振り返ると、スクールカウンセラーを目指す大学院生に教える内容は、思春期の神経症と子どものうつと初期の統合失調症の治療から、学校でのつまずきとして現れる発達障がい(発達症)や診断基準以下の特性(性格)がもたらす困難への支援へと大きく変わりました。
現在、子どもの1/10人は何らかの発達症やその特性で苦しみます。それを医学的な障がいとして捉えること自体に無理があります。そういう意味ではASDをASと呼ぶ、あるいはADHDをADHと呼ぶように、障がい(Disorder)ではなく、発達特性として捉える視点は今後拡大すると思います。グレーゾーンと呼ばれる状態は医学的には診断閾値下と呼びますが、閾値下で軽度ではあっても、成長する上で抱えた困難は継続し、周囲に揉まれて育って行く中で自信のなさや不安を抱えやすいです。その際、親が旧い重い障害のイメージに縛られていると、子どもの軽いが日々抱える困難を障がいとして理解出来ないことがあります。障がいを努力不足と否定したり、性格が悪いととってしまうことすらあります。子どもが閾値下の困難に悩んでいるという現実を受け容れにくくしてしまうのです。困難場面で励まし、支えて貰えないと子どもは自信を喪失します。失敗体験を重ね続けると、「どうせやってもダメだからやらない」「やると良くないことになるからやらない方がマシだ」とマイナス思考から回避が定着してしまい、困難を乗り越える力を失ってゆきます。ここから子どもの不安症が生じ、思春期以降のうつ病へとつながって行きます。あるいは、親や大人に反発する対人関係を基本とした性格になるという問題を抱えます。このように精神障害や困難の多い性格へと発展する経過を考えると、親の障がい理解が変わり、子どもの発達症を今の成長課題と前向きに捉えて、子どもの対処能力を上げるよう取り組むことが、発達の課題を抱えた子が周囲と良い関係を持ち未来に期待を抱くような健やかな育ちでは大切と思います。
障がいだからお薬を飲むのではありません。今の困難を軽減したり、解決できるようにする力を育むために飲むのです。また、多くの場合、薬は一生飲み続けるものでもありません。もちろん、特別支援学校に通学するような重度の衝動制御の障害を持つような場合は別ですが、発達症としては少数派です。多くの発達症の子は通常級で過ごします。その場合、就学前の療育がそうであったように、お薬は成長を加速し追い付かせるための一支援方法だと思います。軽症の子どもの場合、親子の波長合わせが出来れば治療後3-5年で同年齢の子どもに追いついて行きます。子ども自身が前向きな主体性を獲得し、日々の成長課題をそれまでの体験から判断し乗り切っていけるようになれば、診察で話しあって、一旦減薬して止めることを試しながら、服薬終了を決める時期が来ます。
21世紀になってからは、外来の対象となる子どもの年齢が一段と下がりました。下は幼稚園年長児から診ております。その理由は家族がよりカプセル化し、社会としての子育てのあり方で親の役割が強まった結果、孤立もしやすいという負の影響がでたのだと考えます。就学前に親が養育の難しさや育ちの遅れを感じて、療育や習い事など様々な努力をしたにも関わらず、就学後学校場面で追いつく手応えが得られず、むしろ差が拡大したと感じるとき、親の養育への自信が削がれます。そのような親子で苦しむ状況が増したと思っているからです。
子ども家庭福祉と言いますが、家族の独立性の健康さを守るために家庭養育への社会的支援の必要性が増したと考えております。子どもが大人になるためには、家庭と園・学校という子どもにとって基本となる2つの社会で成長体験となる学びを重ねる必要があります。外来で親と連携を取るだけでは解決できない課題に出会い、学校との連携を図ることが増えました。
そう考えるようになった背景には、子ども達の困難を親身に受けて下さる学校や教員との出会いに恵まれたことがあります。病院で受診患者を待つというスタイルから、学校や地域の講習会の講師などを引き受け、訪問を繰り返す中で、地域での繋がりも広がりました。気がつけば子ども支援センターや発達センター、児童養護施設や児童相談所などでも働くようになりました。その過程で、子どもたちがありのままで育つことを保障しようという福祉の視点を大切に思うようになりました。
最後になりますが、子どもの福祉(ありのままの幸せ)を保障したいです。
それを医療で実現するためには、聞こえにくい子どもの意見を尊重する心づもりが必要だと思います。具体的には、『子どもの権利条約』の4点、子どもが差別を感じないで育つこと、大人目線での押しつけでなく子ども自身が自分にとって最もよいと思えること、命を守られていると実感しながら成長できること、子ども自身が意見を表明し参加できること、を大切に思っております。
略歴
① 医療
- 群馬大学医学部卒業後神戸大学医学部精神神経科学教室入局
- 東京都調布市青木病院で精神科医として勤務
- 2019年10月 こころの育ちクリニック開院
② 教育および教育臨床歴
- 山梨大学教育学部非常勤講師
- 中野区教育委員会 教育相談スーパーバイザー
- 元淑徳大学総合福祉学部教授・淑徳大学大学院附属心理臨床センター長
- 元岩手県心のサポート・スーパーバイザー
③ 子ども福祉
- 児童養護施設聖友学園・品川景徳学園精神科嘱託医・産業医
- 千葉市西部児童相談所精神科嘱託医
- 浦安市発達センター嘱託
資格
- 精神保健指定医
- 日本精神神経学会認定 精神科専門医・指導医
- 産業医
- 日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士
- 公認心理師
ほか
所属学会
- 精神神経学会
- 心理臨床学会
ほか